子どもがゲームから離れられない。声をかけても、ルールを決めても、うまくいかない。「このままで大丈夫なのだろうか」と不安を抱えながら過ごす親御さんは少なくありません。
谷川芳江さんの語りは、こうした日常の一コマに静かに寄り添うところから始まります。印象的なのは「空気は読むのではなく、暖めるもの」という言葉です。
うまくいかなくなると、親も子も「空気を読む」ことに忙しくなります。読み合うほど空気はかたくなり、本当に言いたいことほど部屋の隅に押しやられていきます。
谷川さんは、冷えた空気を読み解くより、まず「あたためる」ことを提案します。完璧な声かけよりも、「ここにいていい」という温度が戻ることが、親子が話し始める小さな一歩になります。
ゲーム障害予防教育プログラムは「どうやってやめさせるか」を学ぶ場ではありません。ゲームの背景にある疲れや虚しさ、安心したい気持ちを見直しながら、親自身と家族全体の“あり方”を整えていく試みです。
「心の救急箱を作ろう」の回は象徴的です。これは、自分の心を助けてくれる内側の箱。呼吸を整える工夫、頼れる人の名前、限界に気づくためのサイン、自分基準のやさしいつながり……。正しさではなく、自分で選び取った道具を一つずつ集めていきます。
ゲームの問題の奥には、言葉にならない寂しさや「力がない」という感覚が隠れていることがあります。谷川さんのまなざしは、それらを急いで解決しようとはせず、空気をあたため、心の救急箱を整えることで、親子が「自分の生き方をもう一度選び直す」ための土台を作っていきます。
これまで私たちが大切にしてきた “関係の温度を整える” という視点とも響き合いながら、この講演は、家庭といういちばん身近な場所に、そっと灯りをともす内容でした。
ゲームの時間を減らすより、空気を少し暖め、心の救急箱を整えること。その積み重ねが、親も子も生き方を選び直せる場所をひらいていく――そんな予感を抱かせる講演でした。