本の紹介|『作り方を作る』 佐藤雅彦(左右社、2024)

――ルールを発見し、トーンを生み出すという冒険

広告でもアニメでも教育番組でも、佐藤雅彦の作品には「どうしてこんなに伝わるんだろう?」という独特の透明感があります。その理由は、主張や感情を押しつけず、観る人の中に“自分で気づいた”という体験を生む「トーン」の設計にあります。

佐藤氏は長い年月をかけて、「何を作るか」よりも「どう作るか」、そしてさらに「作り方そのものを作る」という思考にたどり着きました。それは、既存の方法をなぞるのではなく、伝えるための新しい文法を発明していく試みです。正解のない世界の中で、どうすれば他者に届くのか。その問いを40年以上にわたって探り続けてきた歩みが、この本には息づいています。

横浜美術館での展覧会では、彼の創作の過程が「ルールの発見」という言葉で体系化されていました。“濁音の時代”“語尾の研究”“セルフトーキング”“地名の持つシズル”といった、一見バラバラに見える法則が、実は人が「面白い」「気持ちいい」と感じる言葉の構造としてつながっていく。そこから生まれた「バザールでござーる」「だんご3兄弟」「ピタゴラスイッチ」は、偶然ではなく、人の感覚をとらえるためのルールを見つけ出した結果だったのです。

こうして発見されたルールの上に、もうひとつ大切な要素――「トーン」が加わります。淡々とした語り、やわらかな間、音と映像のわずかな“ズレ”。それらが見る人の思考を促し、「自分で発見した」と感じられる体験をつくり出します。トーンとは、相手の中に余白を残すリズムのこと。伝えるとは、相手の思考の速度を尊重することなのかもしれません。

『作り方を作る』を読んでいると、創作の話を越えて「人はどうやって生き方を作るのか」という問いが浮かび上がってきます。迷いながら、手探りで、自分なりのルールを見つけていく。その過程こそが“作る”ということの本質なのだと気づかされます。

この本が教えてくれるのは、ルールを発見し、トーンを生み出すことが、人と世界をもう一度つなぎ直す方法であるということです。芸術の書でありながら、そこには支援や教育、そして人が生きていくうえでの根源的なヒントが静かに息づいています。

書誌情報:左右社/2024年/単行本 304ページ/ISBN-13:978-4865283763